4,000万円を超える買い物を、35年かけて返していく。
冷静に考えると、とんでもない話だと思います。
私も家づくりを始めたころ、いちばん怖かったのがここでした。
「住宅ローンは年収の5倍まで」
検討中の方なら、一度は目にした言葉だと思います。
ところが、2026年7月24日に公表された最新の公的データでは、実際に家を建てた人の年収倍率は6.9倍でした。
土地から買った人にいたっては7.8倍です。
通説と実測値が、これだけ離れている。
この記事では、その差がどこから来るのかを分解します。
そのうえで、私が4,600万円の住宅ローンを借りたあとに何が起きたかを、実額で書きます。
結論から言うと、審査に通った金額は、最後まで支払う金額ではありませんでした。
- 2025年度の実測値である年収倍率6.9倍・7.8倍の中身
- 同じデータが4.5倍にも6.9倍にもなる理由
- 総返済負担率の実測値と、一般に言われる目安の差
- 本審査に通ったあとで総額が600万円増えた私の記録
- 借入額を決める前に確認しておきたい5項目
【結論】実測の年収倍率は6.9倍と7.8倍
まず数字から出します。
| 区分 | 年収倍率 | 平均世帯年収 | 所要資金 |
|---|---|---|---|
| 利用者全体 | 6.6倍 | 715.9万円 | — |
| 注文住宅(土地なし) | 6.9倍 | 718.9万円 | 4,262万円 |
| 土地付注文住宅 | 7.8倍 | 742.2万円 | 5,313万円 |

「5倍まで」という言葉を信じていた人ほど、この数字に驚くと思います。
実際に家を建てた3,889世帯の平均が6.9倍。土地から買った7,733世帯の平均が7.8倍。
少数の例外ではなく、これが真ん中あたりの姿です。
ロコズただし、ここで「なんだ、7倍まで借りていいのか」と読んでしまうと危険です。この数字が何を指しているのか、もう少し細かく見る必要があります。
「年収の5倍まで」という通説の位置づけ
そもそも、この「5倍」はどこから来た数字なのでしょうか。
調べた範囲では、銀行や不動産関連のメディアで「年収の5〜7倍」「返済負担率20〜25%」という目安が広く使われています。
ただし、この数値の根拠となる一次資料は、私が調べた限りでは見つけられませんでした。
法令や公的機関が定めた基準ではなく、実務上の経験則として共有されている目安、という位置づけだと考えられます(要確認)。断定はできないので、この記事では「そう言われている」という扱いにとどめます。
つまり今の時点で分かっているのは、次の2つです。
- 「5倍」は出どころのはっきりしない目安である
- 実測値は6.9倍・7.8倍で、目安を大きく超えている
ここで多くの記事は「だから無理をしている人が多い」と結論づけます。
でも、それは早すぎます。
この2つの数字は、そもそも同じものを指していません。
年収倍率の定義にある2つの落とし穴
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。
頭金を含む「物件価格 ÷ 年収」の数字
読者が知りたいのは、おそらく「いくら借りていいのか」です。
つまり、借入額 ÷ 年収。
ところが調査で使われている年収倍率は、所要資金 ÷ 年収です。
所要資金には、自分で用意した頭金も含まれています。
注文住宅の場合、平均で839.8万円の手持金が入っています。所要資金の19.7%です。
この6.9倍を「年収の6.9倍まで借りている」と読むのは誤りです。正しくは「年収の6.9倍の価格の家を、頭金を入れて買っている」です。
平均どうしを割ると5.9倍になるズレ
もうひとつ、集計しているときに気づいたことがあります。
公表されている平均値どうしを、自分で割ってみました。
4,262万円(平均所要資金) ÷ 718.9万円(平均世帯年収) = 約5.9倍
公表されている年収倍率は6.9倍。1倍分ずれます。
土地付注文住宅でも同じことが起きます。5,313万円 ÷ 742.2万円 = 約7.2倍に対し、公表値は7.8倍です。
総返済負担率でも同じ方向のズレが出ました。月々の予定返済額123,900円を年換算して世帯年収で割ると約20.7%ですが、公表値は23.0%です。
3つの指標すべてで、公表値のほうが高く出ています。ここから、公表されている年収倍率は「平均どうしを割った値」ではなく「1件ごとの倍率を平均した値」ではないかと推察しています。年収が低めの世帯の倍率が平均を押し上げている、という構図です。ただし算出方法は公表資料から特定できませんでした(要確認)。
細かい話に見えるかもしれません。
でも、自分の予算に当てはめる数字が5.9倍なのか6.9倍なのかで、年収700万円の人なら700万円の差になります。
借入額だけで割ると約4.5倍
では、読者がいちばん知りたい「借入額ベース」だと、どうなるのか。
同じ調査の融資金の平均で計算してみます。
3,247.9万円(フラット35の平均融資金) ÷ 718.9万円(平均世帯年収) = 約4.5倍


4.5倍です。
「5倍まで」に、きれいに収まりました。
同じ調査の、同じ人たちの数字です。それでも、何を年収で割るかによって4.5倍にも6.9倍にもなります。
「実測は6.9倍だから、5倍説は間違い」と書くことはできません。定義が違うものを比べているだけだからです。この2つを並べて「通説より借りている」と語ることはできない、というのがこの記事の結論です。
ただし注意点があります。
所要資金4,262万円のうち、手持金839.8万円と融資金3,247.9万円のほかに「その他の資金」が174.4万円あります。
この内訳は公表資料からは分かりません。親からの援助かもしれませんし、別のローンかもしれません。
したがって4.5倍が借入額のすべてとは限らないという前提で見てください。
総返済負担率は23.0%と26.4%
倍率よりも、家計への影響が直接見えるのがこちらです。
| 区分 | 2024年度 | 2025年度 | 手持金の割合 |
|---|---|---|---|
| 注文住宅(土地なし) | 23.6% | 23.0% | 19.7% |
| 土地付注文住宅 | — | 26.4% | 9.1% |


一般に無理がないとされるのは20〜25%です。
土地付注文住宅の26.4%は、その上限を超えています。
手持金の割合を見ると理由が見えてきます。土地なしの19.7%に対して、土地付は9.1%しかありません。
土地から買う人は、頭金の割合が半分以下です。平均年齢も40.1歳と、土地なしの47.8歳より7歳以上若い。
貯める時間が短いうちに、土地と建物の両方を買う。その結果、返済負担率が高くなる。データはそういう構図を示していると読めます。ただし、これは私が数字から読み取った推察です。調査は理由を聞いていません。
そして、私自身がまさにこの型でした。
【一次情報】4,600万円を借りるまでの経緯
ここからは統計ではなく、私の記録です。
2021年、私は7社を比較したうえでアイ工務店と契約し、土地も購入して延床50坪の家を建てました。
借りたのは住宅ローン4,600万円。地元の銀行で、金利は0.44%(保証料込みで0.64%)でした。
頭金は80万円です。
問題は、この4,600万円という金額の決め方でした。
- 当時検討していたタマホームの営業さんに勧められ、4,600万円で仮審査を出した
- 最終的に契約したのはアイ工務店だったが、金額はそのまま
- 本審査の前に営業さんへ確認し「問題ないと思います」という返答をもらった
- 審査を通過し、そのうち約1,350万円で土地を決済した
いま振り返ると、①が致命的でした。
タマホームで余裕のある4,600万円は、アイ工務店では余裕ではなかったのです。
冷静に考えれば当たり前です。会社が違えば坪単価も標準仕様も違います。
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言い訳をすると、仕事をしながら7社を回って疲れきっていて、そこまで考える余裕がありませんでした。仮審査だから後で直せる、と軽く考えていたんです。
なお、私の年収は公開していません。
なので、自分の年収倍率がいくつだったかも書きません。逆算されるような書き方も避けています。
ここで読んでほしいのは倍率ではなく、金額の決まり方そのものです。


本審査の承認後に600万円増えた記録
ここからが本題です。
アイ工務店では、契約後に間取りの詳細、収納、コンセント配置、水回りのメーカーとグレードを決めていきます。
打ち合わせは5回以上ありました。
その間、総額は一度も提示されませんでした。
意地悪をされたわけではありません。単価を把握しているのは本社の積算担当で、外部のインテリアコーディネーターや設計士はその場で答えられない仕組みだったからです。
壁紙のグレードを上げ、海外製の食洗機に変え、収納を足し、テレビ裏のパネルにこだわり、途中で床面積まで大きくしました。
すべての希望を反映した図面が完成し、本社で積算された総額が出てきます。
土地を含む予算4,600万円に対して、5,200万円以上でした。


600万円のオーバーです。
不要と判断したものを9箇所削って200万円圧縮し、最終的に4,950万円まで落としました。
ただし、間取りの変更による減額はできませんでした。すでにその図面で構造計算が済んでいたためです。
同意書にサインしたのは私なので、会社に落ち度はありません。
それでも、総額を知ってから床面積を考えたかったというのが正直な気持ちです。




私の失敗の本質は、ここに尽きます。
本審査は、詳細設計が終わるずっと前に出します。つまり、いくらかかるか分からない状態で、いくら借りるかを決めているのです。
この構造から自分を守る方法は、ひとつしか思いつきませんでした。契約前に、同じ間取りと同じ希望条件で複数社に総額を出させることです。
私は7社を回りました。1社目の見積もりを見た時点では、それが高いのか安いのかまったく判断できませんでした。値引き額は0円から400万円まで開きました。
金利1.98%の追加ローンと32万円の損失
4,950万円まで圧縮しても、当初の4,600万円からは350万円足りません。
50万円は貯金を取り崩し、残りの300万円は銀行から追加で借りることにしました。
このときの私は、住宅ローンを300万円増額すればいいと軽く考えていました。
そして、それができないことを知ります。
すでに4,600万円の住宅ローンの一部(約1,350万円)を分割融資で土地代金に充てていたため、ローンは実行済み。実行済みの住宅ローンは金額を変更できない、というのが銀行の回答でした。
代わりに案内されたのが、家関連の費用に使えるローンです。
金利は1.98%。住宅ローンの約4倍でした。
他行で借りれば住宅ローンの契約違反になりかねないので、選択肢はありませんでした。
どのくらい損をしたのか、計算しています。返済期間は住宅関連費用ローンの上限である15年としました。
| 300万円を借りた条件 | 金利 | 総返済額 |
|---|---|---|
| 住宅ローンに含められた場合 | 0.64% | 315万円 |
| 実際(住宅関連費用ローン) | 1.98% | 347万円 |
| 差額 | — | 32万円 |
手続きを一度間違えただけで、32万円です。
削ったオプション9箇所のうち、いくつかは残せた金額でした。


なお、私が借りた2022年当時の金利0.44%は、いまの水準ではありません。日本経済新聞の報道(2026年7月31日)によると、大手5行の固定型の最優遇金利は2026年8月に平均3.698%まで上がっています。当時の私の条件をそのまま参考にしないでください。


頭金80万円と平均839.8万円の差
最後に、統計と自分を並べてみます。
2025年度の注文住宅の平均手持金は839.8万円。所要資金の19.7%です。
私の頭金は80万円でした。
その差は約10倍。私は明らかに平均から外れた側にいます。
頭金が少なくても家は建ちます。私が建てられたのがその証拠です。ただし、頭金が少ないということは、想定外の増額が起きたときに現金で吸収する余力がないということでもあります。私はそこで金利4倍のローンを借りることになりました。この2つは、たぶんつながっています。
前回の記事で、2025年度は手持金が前年比15.2%増えたと書きました。
建設費の伸び8.3%を大きく上回るペースです。値上がり分を借入ではなく自己資金で吸収する動きが、データにも表れています。


このデータで分からないこと(統計の限界)
数字を出した以上、限界も書いておきます。
① フラット35利用者に限定されたサンプル
集計対象は35,553件ですが、すべてフラット35の利用者です。変動金利で借りた人、現金で建てた人は入っていません。
フラット35は全期間固定なので、金利上昇に備えたい層が相対的に多く含まれている可能性があります。日本全体の平均ではありません。
② ローン承認時点の金額
集計対象は買取承認案件および付保承認案件です。完成後の最終金額ではありません。
この記事に書いたとおり、私の場合は承認後に600万円増えました。実測の6.9倍という数字も、最終的にはもう少し上振れしている可能性があります。
③ 年収倍率の算出方法が不明
前述のとおり、平均どうしを割った値と1倍分ずれます。算出方法は公表資料から特定できませんでした。
④ 世帯年収であり個人年収ではない
共働きの合算が含まれます。単独の年収で6.9倍を当てはめると、負担感はまったく違います。
⑤ 借りたあとの生活は追跡されていない
この調査が示すのは借りた時点の姿だけです。返済が続いているか、苦しくなっていないかは分かりません。
借入額を決める前に確認したい5項目
私の失敗から言えることを、5つに絞りました。
- 仮審査の金額を、契約する会社の見積もりで出しているか
- 打ち合わせのたびに、概算でいいので総額を出してもらう約束をしたか
- 土地を先に決済する場合、あとから増額できるか銀行に確認したか
- 構造計算に進む同意書を出す前に、総額を確認できるか聞いたか
- 増額が起きたときに現金で埋められる余力を残しているか
3つ目は、特に見落とされがちだと思います。
土地から買う人にとっては、分割融資を実行した瞬間に金額が固定される可能性があるという話です。
私はこれを、300万円が必要になってから知りました。
営業さんも銀行員さんも、嘘はつきません。ただ、自社に不都合なことをわざわざ説明してくれるわけでもありません。施主側が知識を持っているかどうかで、数十万円が変わります。
よくある質問
- 実際にはみんな年収の何倍で借りていますか。
-
2025年度の実測値は、土地を持っている人が建てる注文住宅で平均6.9倍、土地から購入する土地付注文住宅で平均7.8倍です。住宅金融支援機構がフラット35利用者を集計したもので、注文住宅は3,889件、土地付注文住宅は7,733件が対象です。
- 年収倍率6.9倍は、借入額が年収の6.9倍という意味ですか。
-
違います。この年収倍率は所要資金を世帯年収で割った値で、自分で用意した頭金も含まれています。注文住宅の場合、平均で839.8万円の手持金が含まれています。借入額だけで計算すると約4.5倍になります。
- 「住宅ローンは年収の5倍まで」という目安の根拠は何ですか。
-
銀行や不動産関連のメディアで「年収の5〜7倍」「返済負担率20〜25%」という目安が広く使われていますが、その根拠となる一次資料は確認できませんでした。法令や公的機関が定めた基準ではなく、実務上の経験則として共有されている目安と考えられます。
- 総返済負担率の実測値はどのくらいですか。
-
2025年度は、注文住宅で23.0%、土地付注文住宅で26.4%です。一般に無理がないとされるのは20〜25%とされており、土地から購入する場合はその上限を超えています。
- 審査に通った金額が、そのまま最終的な支払額になりますか。
-
なるとは限りません。この統計はローン承認時点の金額であり、完成後の最終金額ではありません。私自身、土地を含む予算4,600万円で本審査に通った後、詳細設計を終えた時点の見積もりが5,200万円を超え、600万円のオーバーになりました。
- 住宅ローンの承認後に、借入額を増やすことはできますか。
-
すでにローンが実行されている場合はできないことがあります。私の場合は分割融資で土地代金に一部を充てていたため増額できず、金利1.98%の住宅関連費用ローンを別に組むことになりました。住宅ローンの0.64%と比べ、総返済額で32万円多く支払う結果になっています。


まとめ
- 2025年度の実測の年収倍率は注文住宅6.9倍、土地付注文住宅7.8倍
- ただしこれは頭金を含む「物件価格 ÷ 年収」であり、借入額の倍率ではない
- 融資金だけで割ると約4.5倍となり、「5倍まで」に収まる【試算】
- 総返済負担率は23.0%と26.4%。土地から買う人は目安の上限を超える
- 私は本審査の承認後に総額が600万円増え、金利4倍のローンで32万円損した
- 借入額は、総額が確定する前に決めさせられる構造になっている
「年収の何倍まで借りていいか」という問いに、統計は答えてくれません。
答えられるのは「他の人がいくらで借りたか」だけです。
そして、その金額すら承認時点のもので、私のように後から動きます。
だからこそ、借入額を決める前にやるべきことは、倍率を調べることではなく、自分が建てる家の総額を、できるだけ早く、できるだけ正確に知ることだと思っています。
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